『アリランの唄』(①写真)は、淡谷のり子と長谷川一郎の共唱によるコロムビア盤(日本譜)で、昭和7年に発売されました。
長谷川一郎とは、朝鮮の人気流行歌手の蔡奎燁が、コロムビア専属時代に内地向けの日本語レコードを吹き込む際に使用した芸名です。姓の長谷川は、当時コロムビア京城支店があった京城府長谷川町にちなんで付けられたといわれています(のちに京城支店は桜井町に移転)。
長谷川(蔡)とデュエットしている淡谷のり子は、後年、『別れのブルース』『雨のブルース』『君忘れじのブルース』などの代表曲で、「ブルースの女王」と呼ばれるようになった往年の大歌手です。昭和6年7月にコロムビア専属となり、同年10月に発売され大ヒットした『酒は涙か溜息か』(藤山一郎)のB面にカップリングの『私此頃憂鬱よ』で人気を上げてきていた頃です。
レーベルには「流行唄」とあり、その下に「朝鮮民謡」と小さく記されています。編曲は古賀政男、詞は詩人で昭和期に入って作詞家としても活躍した佐藤惣之助が付けています(レーベル表記は「作歌」となっています)。
曲を聴いてみると、繰り返しの歌詞である「アリランアリラン アラリヨ アリラン峠を 越えゆく…」のあと、「涙こぼれて 花咲け 君と別れゆく 空」(1番)、「胸の悩み つきせず 星のかずは 知れずよ」(2番)などの佐藤の作詞が入り、古賀の編曲の効果もあってか、明るくさらりとした感じの青春ソングになっています。
この時代、内地でもアリランがずいぶんと流行していたらしく、前年の昭和6年にビクターから発売された『アリラン』(金色假面)を皮切りに、翌7年にテイチクより『アリランの唄』(横田良一)、ポリドールでも『アリラン』(京城本券笑太郎)のレコードが発売されています。
②写真は、金色假面の『アリラン』で、昭和6年6月の発売。金色假面とは、『涙の渡り鳥』や『旅のつばくろ』などの代表曲がある小林千代子のことで、この『アリラン』で「覆面歌手」としてデビューしました。歌手名に合わせてか伴奏者名も「マスクド・オーケストラ」となっているのが面白いです。作詞(詩)は西條八十で、編曲はビクター文芸部が担当。日本語によるアリラン翻案歌謡第1号ですが、西條の詞は佐藤惣之助よりも通俗歌謡色が強くなっていると思います。
昭和8年には、『アリランの唄』(米沢正夫・久保文憲監督)という無声映画が宝塚キネマで製作されており、この作品に『アリランの唄』を歌った横田良一の名前が出演者リストにあります。③写真は、その横田がタイヘイレコードで吹き込んだ「キリン」レーベルでのレコードです。
ふろあ
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